LPGC WEB通信  Vol.30 2016.09.12発行 

【特別寄稿】火の教育の大切さと子どもたちの将来を考える
 

                    滋賀大学 教育学部 教授 岳野公人 氏

1.はじめに
 世界各地で発生する自然災害への対策や復興が行われるなか,世界の国際平和と安全の維
持に取り組む国連にとっても自然災害は無視できなくなっている
1)
災害の被災者にとってガス及び電気を中心としたライフラインが止まった際,生活をする上
で大切だったことは「生きるために食べること」2)だったとの記録も残されていることか
ら,災害時に備え,火をつくるための知識や技能を身につけることは重要である。また,生
活には欠かすことのできない明るさ,暖かさ,おいしさなどは,火から得ている恩恵である。
 また,我々の生活において,一番身近に火を扱う場は台所である3)。しかし,技術の進展
や環境への配慮及び住宅の安全のため,各家庭においてオール電化に移行する傾向が認めら
れる。また,2016年4月より電気の小売り全面自由化,2017年4月よりガスの小売り全面自
由化といった,エネルギーの自由化が開始される4)。消費者にとってライフスタイルや価値
観などを踏まえ,エネルギー及び会社を選択するための情報や知識を持つこと,その選択に
伴いエネルギーの消費による環境へ与える影響について考えることが重要になっている。

 平成24年度から全面実施された小学校・中学校及び高等学校における学習指導要領におい
ても,環境教育やエネルギー教育についての充実が明記されている5)。その中で,小学校で
は社会科,理科,中学校では社会科,理科,技術・家庭科,高等学校では地理歴史科,公民
科,理科,家庭科などがその一端を担っている。しかし,これらの教科では,各家庭で扱う
火に関する学習内容は扱われていないため,これまでにも増して,直接火を扱う経験が少な
くなる。そうした中,生きる力の育成に向け,子どもたちを対象とした火育を推進している
企業もある6)。火育とは,子どもたちが「火に親しみ、火を学ぶ」体験を通じて,豊かな心
を育み,生きる力を高めることである。そこでは,小・中学生を対象とした火おこし体験や
出張授業を行うことで「火を使い,理解すること」の推進に取り組んでいる。これらの活動
は,子どもたちにとってエネルギー資源や自然環境を見つめるきっかけになると考えられ
る。
 そこで,本稿では,火の教育に積極的に取り組む石川県と高知県のNPO法人や企業団体,
学校などの取り組みを紹介する。


2.高知県の事例:火おこしと地域おこし
 火育とは,小・中学生を対象に「火に親しみ,火を学ぶ」体験を通して,豊かな心を育み,
生きる力を高める学習のことである6)。ガス会社の火育の実践について,一般社団法人高知
県LPガス協会は,平成24年度より,子どもたちを対象に,安全な火の使い方や火を使った調
理などの火育プログラムを実施し,火おこし体験の場を提供している。平成25年度は,小学
校での出前授業という形で火育のプログラムを実践している。平成26年度は,高知県協会の
災害対策と災害対応型LPガス設備の展示,実演,LPガスの災害対策や正しい使い方のパネル
展示,炊き出し,LPガス発電機の実演と小学生を対象とした火おこし体験を行った実績もあ
る。
 また,一般社団法人高知県LPガス協会を含む5つのガス協会及び会社で成り立つ「ガスコ
ラボ四国」では,火育プロジェクトを実施している。火育プロジェクトでは,地域に根ざし
た火育カリキュラムを展開するとしており,四国4県(愛媛、香川、徳島、高知各県)の小学
生を対象に出前授業を実施している7)。火育プロジェクトのテーマは2つ設定されており,1
つ目は「火育×地産地消」,2つ目は「火育×地域防災」である。
 「火育×地産地消」では,地元で収穫された米を組み立て式のかまどを使用して炊きあげ,
子どもたちが炊きたてのご飯を食べるというカリキュラムである。かまどに火をおこし,米
を炊く作業を通して,火や食のありがたさを子どもたちに理解してもらうことを目的として
いる。
 また「火育×地域防災」では,今後の災害に向けて,子どもたちに防災への意識をしっか
りと身につけてもらうためのカリキュラムである。災害時のおけるガスの取り扱いをはじ
め,災害時に必要となる火の扱い方や安全対策など,防災に関する知識や心得を学ばせるこ
とを目的としている。
 ガスコラボ四国では,これら2つのカリキュラムを用意しており,学校ごとにカリキュラ
ムの希望をつのり,体験学習を開催することができる。




3.石川県NPO法人の事例:火はつけたら消す
 石川県のあるNPO法人では,火の大切さを教えるための活動を実践している。人類は火を
利用し,明かりを得る・暖を取る・獣から身を守る・食物に火を通すなど多くの恩恵を得て
きた。しかし,火は扱いを間違い,悪意を持って使用すると人を傷つけ,大切なものをすべ
て焼き尽す。また,オール電化など便利な設備で満たされている昨今,人の生活から火はま
すます遠ざかり,大人も子供も本物の火を見る経験が非常に少なった。そのため,震災など
で便利な設備が使えなくなった時,自分の力で火を使って食事をすることは,災害時を生き
残るための不可欠な能力なると考え,火おこし体験を自主企画している。
 この企画では,ライフラインが止まったときに身近にあるもので火をおこし,そして消火
するという,昔では当たり前だったことを子どもたちと一緒に体験するプログラムを提供し
ている。
 ここでのプログラムは,①事前の説明、②火おこし体験、③火消し体験、④まとめの4段
階で構成されている。
 ①事前の説明では,火の特徴などを説明,下から上に燃えること,いきなり大きな木材に
  火はつかないこと,など火の怖さや特徴を先に教えている。
 ②火おこし体験では,新聞紙→削りくず→小枝の順に積み重ね,新聞紙に火をつける。火
  ばさみを使って徐々に大きな薪をくべる。珪藻土コンロに燃えた薪を移動させた。たき
  火と違って小さなスペースで火を使うことが可能なように,この法人では,組み立て式
  の珪藻土コンロを開発している。
 ③火消し体験では,いきなり水を火にかけると水をはじくため,土をかけてある程度鎮火
  させる。最後に水をかけて完全に消火する。
 ④まとめでは,感想などを聞きながら,学んだことを確認する。

 NPO法人のスタッフから以下の感想をもらった。「参加した子どもたちは最初何が何だか
わからない状態でした。それもそのはず,火を扱ったことが今までないからです。しかし,
着火~薪をくべるところと行程が進むにつれ,自主的に動き出すようになり,笑顔が見れる
ようになりました。火というものを初めて意識してみたのではないかと思います。貴重な経
験になりましたが,これからは火を扱うことについて学び,実際に自分達で着火できるよう
に教えていければと思います。」





4.石川県中学校での事例:薪とLPガスの違い
 石川県の事例では,薪割り体験と塩づくりの体験学習を紹介する。石川県能登地方に伝統
的に伝わる「揚げ浜式製塩法」では,釜焚きの燃料として里山の間伐材が利用されている。
塩づくり職人(浜士:はまじ)は山を所有し,その山で間伐された木材を塩田まで運んだ道
は「塩木の道」と呼ばれていた。以上のように,揚げ浜式製塩法は里海だけではなく,里山
とも深い関わりがある。このことを生徒に伝え,塩づくりを伝統的な揚げ浜式製塩法に近づ
けるために,薪割り体験を行っていた。
 塩づくりを行うために薪割りを体験させたが,塩づくりの授業実践では薪ではなくLPガス
を用いて海水を沸騰させた。以前,薪を燃料に釜焚きを行ったが,火の勢いが激しく,生徒
がやけどをする可能性があることや,10台のキャンプストーブを教員1人が全てを見て,安
全が確保できるか心配だったなどの経緯から,薪ではなくLPガスを用いていた。
 ガスコンロを用いる利点としては,エネルギーの話と関連した話ができるということがあ
げられる。薪は再生可能な資源であり,間伐材を用いると山の整備も兼ねることになるため,
自然環境に配慮した釜焚きになると考えられる。しかし,LPガスは有限な自然である他,5
リットルの海水を蒸発させるのにLPガスのガスボンベ(250g)を1つ消費してしまう。5リ
ットルの海水からは45g(大さじ3杯)しか塩を採ることができないことからも,塩づくり
に必要なエネルギーの大きさや間伐材を使用する利点などに触れることができる。




5.終わりに
 以上のように,本稿では火の教育に積極的に取り組む石川県と高知県のNPO法人や企業団
体,学校などの取り組みを紹介したが,それぞれに特徴を見いだすことができる。高知の企
業が実施する火の教育では,企業と地域がつながるための方法としても,十分に機能してい
る。また,石川県のNPO法人の活動では,火を消すことの大切さをしっかり教えていること
にも,教育的な意義が認められる。最後の中学校の実践では,火を利用することの意味や歴
史を教えようとする試みである。ここに紹介した事例はすべて子どもの将来に非常に有意義
な影響を与えてくれると思われる。火を扱うことの大切さと子どもたちの将来がしっかりつ
ながるような活動をこれからも支援していきたい。

<参考文献>
1) 藤岡達也:持続可能な社会をつくる防災教育,(株)協同出版,2012
2) 水谷好成,小野寺泰子,鵜川義弘,福井恵子:屋外体験型研修とものづくりを組み合わせた防災教育,
  宮城教育大学 教育復興支援センター紀要 第3巻 ,2015
3) 一般社団法人 福島県LPガス協会:『炎が見える生活をご提案』,
  http://www.fukushimalpg.or.jp/honogamieru001.htm,2016/04/09閲覧
4) 経済産業省資源エネルギー庁,
  http://www.enecho.meti.go.jp/category/electricity_and_gas/,2016/04/09閲覧
5) 文部科学省:新学習指導要領における「環境教育に関わる主な内容」,
  http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chousa/shisetu/013/003/shiryo/attach/1299713.htm
  2016/04/09 閲覧
6) 大阪ガス:火育とは,
  http://www.osakagas.co.jp/hiiku/about.html,2016/04/03閲覧

7) ガスコラボ四国:http://www.gas-collabo-shikoku.com,2016/08/11閲覧