LPGC WEB通信  Vol.54  2018.09.10発行 

【特別寄稿】
 根本解決への岐路に立つ料金透明化・取引適正化問題

一般財団法人日本ガス協会
地方支援担当理事
角田 憲司
1.はじめに
 「LPガス料金透明化・取引適正化問題(以下、透明化・適正化問題)」は、「液石法施行規則」の一部改正や「液化石油ガスの小売営業における取引適正化指針(ガイドライン)」 の制定以降、LPガス業界が解決すべき重要課題としての位置づけが高まり、積極的な行政指導とも相まって、たとえば喫緊の課題とされる「標準的な料金メニューの公表」でも一定の進展が見られている。
 こうした中、筆者は(都市ガス業界に身を置く者ではあるが)機会あるごとに「透明化・適正化問題」に関する提言を行ってきた。また今年度は北関東(7/27)と北海道(8/17)のLPガス懇談会にもプレゼンテーターとして出席させてもらった。
 その経験も踏まえ、「透明化・適正化問題」の根本的な解決に向けて、改めて考えを述べてみたい。


2.根本解決に向けたガバナンスは十分か?
 「透明化・適正化問題」が本格的に検討されるようになった出発点は、2016年2~4月の「液化石油ガス流通WG」だった。 同WG報告ならびにパブリックコメントの結果を踏まえ、経済産業省は2017年、2018年に以下のような措置を講じた。
 
 これらの措置がどの程度遵守されているかを確認する、いわゆるガバナンスについては、「料金メニューの公表状況調査」に加えて、行政による「立入検査」において実施され、立入検査で不備が発覚した場合は具体的な指導も行われる。一見すると、効果的なガバナンス体制のようだが、果たしてそれで十分だろうか?


行政措置によるガバナンスの効果と限界
 今後のガバナンスを考えるにあたってまず認識しておくべきことは、経済産業省が講じた措置には、法令に基づく罰則もある「省令改正事項」と、行政指導であり遵守しなくても法令に基づく罰則はない「ガイドライン事項」に分かれていることであり、守らないと罰せられるのは主に以下の2点である。

 上記の措置が目論んだのは「賃貸集合住宅の入居者の賃貸借契約時における料金の透明化の促進」である。もし入居者に設備費用を特定負担させるならば14条交付書面に明記・説明しなければならず、目論見どおりであれば、施行日(2017年6月1日)以降の入居者に適用されるため、時間の経過とともに透明化は促進される。また行政が追加的に実施しようとしている「共同住宅入居者や大家、管理者へのアンケート調査」によっても透明化は促進されるだろう。
 しかし市場ではこの問題に関する思いがけない「裏ワザ」も生まれている。それが「LPガス販売事業者による当該費用の一般負担化」、つまり、オーナーや管理会社等から当該設備費用の負担を請け負っても、その費用回収を賃貸集合住宅の入居者にストレートに求めず事業者(会社)全体の費用として負担する方式である。この方式だと特定の設備費用を特定の入居者に負担(特定負担)させているわけではないので、14条書面記載の必要はなく法令遵守に値する。これはオーナーや管理会社等から選ばれる立場にあり、かつ、選ばれればLPガスの独占的供給権を獲得できるLPガス事業者にとって“背に腹は代えられない”措置かもしれないが、皮肉なことに結果として賃貸集合住宅の入居者に対する料金の透明化は図られ、目論見は一応、達成されたことになる。
 だがこの問題をこれでクローズしてよいのだろうか? たしかに入居者の料金の透明化は図られるものの、本来LPガス事業者が負担するものではない設備費用がLPガス業界に“異物”として混入する商習慣が法令改正を機に構造化されてしまうのである。
 そうなると、ここからのガバナンスの当事者はLPガス業界になる。この悪しき商慣行を打破したいのか、したくないのかはLPガス業界が決めることになる。
 ただし、この商慣行はLPガス事業者の個別の利害が絡むゆえ業界だけでの解決は難しく、もし打破したいとするならば、行政(経産省、地方自治体、国交省)や消費者・消費者団体の協力を仰ぎながら、三位一体で取り組まねばならない。まさにLPガス業界関係者の覚悟が問われている。

 もう一方のガイドラインに盛り込まれた措置は、(行政の指導はあるものの)基本的には事業者が自主的に取り組むべきものであり、ゆえに取り組みの進展度合にはバラツキが出る。
 また、同じガイドライン措置事項でも電力や都市ガスのそれと比べると実質的な規制力は弱いし、LPガスの場合はガイドラインの適用対象となる事業者数が圧倒的に多い半面、行政側の物理的な対応能力にも制約があるので、徹底化に時間を要し内容にバラツキが出ることはやむを得ないところでもある。
 とはいえ、ガイドライン措置事項における透明化や適正化は、ここから先、成り行き任せで進めてよいものだろうか?
 この点に関して最も強い問題意識を持っているのはむろん行政であり、もし現時点でできうる努力をしても十分な徹底化が図れないとしたら、行政はさらなる法的規制を課すという手段をとることが考えられる。
 しかしこの手段は行政にとっても“諸刃の剣”になる。なぜなら、もし不徹底事項を法制化すればそれを遵守させる義務が行政側にも生じるからであり、実のところ行政にとっても法的拘束力を高める手段はリスクが高い。


さらなるガバナンスのカギを握るのは消費者である
 では「なんでもかんでも役所頼み」する以外に有効かつ重要なガバナンスはないものだろうか?筆者はそれを「消費者のスタンス」に求めたい。
 元を正せば「透明化・適正化問題」は、消費者の不利益につながる諸々の事態がLPガス業界の自主努力だけでは解消できず、消費者サイドが行政リードによる対応を強く要請して動き出したものである。とりわけ消費者の意を汲んだ消費者団体が強い危機感と解決に向けた当事者意識を持ったからこそ、ここまで進んだ。
 ゆえに、ここから先、「行政によるガバナンスの限界」を乗り越えるためには、消費者・消費者団体の強い危機感と解決に向けた当事者意識が必要不可欠である。この問題に関して、どこまで実態レベルでの改善を図り、消費者利益の保護・増進を図るのか?そのためには消費者・消費者団体サイドが、「行政や業界に解決を要望するスタンス」から一歩踏み出して、自らが実態調査等を通じて問題の構造を掘り下げて理解し、消費者、行政、業界の3者がそれぞれ何をすべきかを見出すとともに、この問題に関して、一般消費者は何を学習し、どう動けばよいかの啓発をしっかり行ってもらうことが重要となる。
 ちなみに筆者は実際にLPガスの地方懇談会に出席してみて、地方の消費者委員と霞が関で国の審議体に出ている消費者委員とでは認識や知識に大きな差があり、また同じ地方委員でも地域の実状によって差があることを強く感じた。今般の「透明化・適正化問題」は地域性に関わりなく、どの事業者にも求められることゆえ、事業者が同じ対応をとっても「この地域ではセーフ、この地域ではアウト」ということがあってはならない。
 実際、この問題解決の究極のカギはLPガスを利用する消費者自身の在り方にある。冷たい言い方かもしれないが、自由化された世界では消費者も自分のエネルギー選択に関して情報を収集し、最終的には自己責任を持って選択することが求められる。そして行政や業界は消費者によるより良い、より賢いエネルギー選択が可能となるよう環境整備に努めることが求められる。


根本的解決のためには課題の深掘りが必要
 一般に消費者が問題だと感じてきたことを根本的に解決するには、課題を深堀りして問題の構造を見極め、根本原因を見つけて解消することが必要である。
 たとえば、なぜ標準的な料金メニューの公表が求められるのかといえば、「消費者はLPガス販売事業者を自由に選択することができるが、料金を公表している事業者がごく僅かなので事業者を選べず、かつ、事業者間の競争も働きにくいし、結果としてLPガス料金の高止まりや不透明性の温床となっている」からだとされている(液化石油ガス流通WG報告)。しかし実際問題として、ほとんどの事業者において標準的な料金メニューが公表されたとしても「消費者による自由な選択や事業者間競争の活性化、高止まり・不透明問題の解消」という本来的な目的が達成できるとは限らない。標準的な料金メニューの全事業者公表は、料金透明化の「一丁目一番地の手段」に過ぎず、公表を実体あるものにするためには、少なくとも次なるステップとして事業者における(同一需要群における)料金表の集約化が不可欠である。この集約化という行為がなければ、たとえ標準的な料金メニューが公表されたとしても、すでにLPガスの契約者となっている消費者に対する真の透明化にはつながらないからである。ちなみに、標準的な料金メニューの公表に象徴される「料金の透明化」に関して、筆者は以下の3つのアクションが必要と考えている。

【料金の透明性(広義)とは】


 本来的な目的に適ったガバナンスの在り方を考える上で、別のケースを見てみよう。
 ガイドラインにある「料金を変更(値上げ)する際の一般消費者等に対する事前通知」は、一見すると「やれば済むこと」ではあるが、本来的な目的に適ったガバナンスにたどりつく上では悩ましい措置である。
 ガイドラインでは「先だって(原則として変更する1ヶ月前に)、一般消費者等に対して検針票や請求書等で変更後の価格及び理由を記載・通知」することが求められている。これは消費者に対して事前の説明や通知なしに値上げすることの防止措置として講じられるものであり、事業者にとっては(表示のための費用はかかるものの)、それほど難易度の高い要求事項ではない。
 では検針票や請求書等で事前通知さえすれば、それでよいのだろうか?筆者はたまたま入手したある大手事業者の値上げ事前通知(ご使用量のお知らせ)を見て愕然とした。複数の異なる世帯に対し、ほぼ同じ理由(宅配業界同様に配送費が高騰)で、片方は基本料金が、もう片方は従量料金単価が、大幅値上げされていたからである。これは自由料金になってからも合理的でない値上げが行われないよう市場監視される都市ガス業界では考えられないことである。
 かといって、この事業者の措置はガイドライン違反ではない。もしこれが合理的な値上げかどうか確認したければ、通知された消費者自身が事業者に対してより詳細な説明を求めるか、それで納得できない場合は自らの意思で他の事業者にスイッチするしかないが、今のLPガス消費者でそこまでの行動を起こす覚悟や情報を持ち合わせている人がどれだけいるか疑問である。明らかに事業者に見切られているわけであり、この事態を解消するためには消費者の目利き力を高めてもらいつつ、業界としての成熟を待つしかない。


ブローカー営業は「悪」か?
 7月19日に開催された南関東地方のLPガス懇談会では、事業者委員からいわゆるブローカー等による切り替えのターゲットとなることを恐れて料金公表を控える事業者が多いのが実態との報告がされた。むろんこれは「本末転倒」というべき対応ではあるものの、だからといって「即、公表すべし」と断じるだけでは事は解決しない。
 そもそもブローカー等による切替営業は「悪」なのだろうか?自由化された電力・都市ガスでは小売事業者による切替営業(スイッチング営業)が活発に行われている。LPガスの場合はどこが「悪」なのだろうか?
 両者を比べてみると、(十分かどうかは別にして)電力・都市ガスでは消費者利益を保護・増進する観点や事業者間の健全な競争を促す観点からの様々な配慮がなされた上での切替営業となっている半面、LPガスではその整備が非常に不十分であることがわかる。
 さらには、消費者(需要サイド)と事業者(供給サイド)の「情報の非対称性」があまりに大きいゆえ、事業者サイドの悪意が働いても是正されにくいという不健全性が市場に充満しているからだと推測できる。
 たとえば最近、内閣府の消費者委員会(公共料金等専門調査会)において電力・都市ガスの比較サイトの公平性や中立性についての検討が開始されたが、その目的は「情報の非対称性」に基づく弊害の除去である(残念ながらLPガスは検討対象外)。
 また、この「情報の非対称性」はまだブローカー問題が起きていない地方圏でも同じように存在している。その象徴が「自分の顧客から求められたこともないので、料金や契約の詳細情報を知らしめる必要がない」とする事業者の考え方であり、そこでも是正の必要がある。


究極のゴールは「情報の非対称性」の解消であり、消費者の目利き力向上が欠かせない
 結局のところ、今般の「透明化・適正化問題」の根本的な解決を図るためには、「情報の非対称性」をどこまで解消できるかが重要なポイントになる。そして、これまで講じられた措置は消費者と事業者との「情報の非対称性」を可能な限り解消し、少なくとも電力や都市ガス並みまでは競争環境整備するためのものであると考えれば、省令やガイドラインを表面的に遵守するだけでは足りず、さらなる深まりが必要であることが理解できる。
 ちなみに南関東や北海道の懇談会では、消費者委員が自ら実態調査をして改革がまだ不十分である証拠を示したが、こうした動きによって「名目と実態の乖離」が明らかになるとともに消費者側の目利き力が高まっていく。カギを握るのは消費者であり、消費者の目利き力向上なのである。


根本解決に近づくための提案
 とはいえLPガス業界の現状から見て、行政権限のない消費者や消費者団体がリーダーシップを発揮してさらなる改革を行うことは言うほど簡単なことではない。一方、(すでにみたとおり)行政に全てを託すことにも限界がある。
 ではどうすべきか? 筆者はLPガス地方懇談会にて、以下のような「事業者による改革状況の民間認証制度」の提案をした。


 認証するのは地域の消費者団体と事業者団体の連合軍であり、そこがルールの作成や運用を担務し優良事業者に認証を与える仕組みなので、いわば「LPガス版ミシュラン制度」である。
 これはダメな事業者のダメな部分に「ダメ出し」をするのではなく、ちゃんとやっている事業者に光を当て、伸ばすことをもって底上げを図ろうというアイデアである。省エネ法にたとえれば、法規制と罰則に基づく使用エネルギー量の抑制ではなく、優良製品の使用を推奨する「省エネラベリング制度」のようなものである。

 このアイデアを実現するためにはいくつかの課題(踏み絵)を乗り越える必要がある。 
 第一は地域(たとえば都道府県単位)の消費者団体がその気になって発案できるか、である。LPガスの透明化・適正化問題にここまで消費者や消費者団体が関与するにはかなりの覚悟と学習が必要である。 
 第二はその地域のLPガス事業者団体がこれに応じられるか、である。透明化・適正化問題に対する事業者団体に加盟するLPガス事業者の透明化・適正化問題に対する取組み姿勢が図らずも露呈する。
 第三は自主的公表に資する内容まで真摯に自社を高めようと努力する事業者がどれくらい現れるか、である。地域によっては事業者が尻込みしてエントリーゼロということもありうる。また少なくとも自社のLPガス事業運営に誇りを持つ事業者は積極的にエントリーしてほしい。
 また、仰々しく認証制度にしなくても事業者がHP等で自主的に公表すればよいと考えることもできるが、「情報の非対称性」が大きく「何がまっとうか」が不透明なLPガス市場にあっては、公表内容に客観性がなければかえって消費者の不信感を増幅する可能性があるので、当面はここまでの仕掛けが必要である。
 ただし筆者の提案内容はあくまでも個人的なアイデアであるため、地域の関係者が真剣に協議すればもっとよいアイデアが浮かぶことだろう。


3.おわりに
 筆者がこのような提案をするのは、残念ながら、今のLPガス業界では消費者を向いて真面目に努力する事業者が報われる保証がないからである。消費者にとって優良な事業者が選ばれない業界の在り方は明らかに不健全であり、この不健全性を解消することが今後の競争下にあってもLPガスが選ばれ続ける大前提だと信じている。
 だからこそ、こうした優良事業者を育てる仕組みは重要であり、「透明化・適正化問題をきちんと解決すれば、自ずと消費者から選ばれるようになる」という定説を作り上げる努力が、今こそ必要である。
 ちなみに、もし本気で取り組もうとする地域や事業者があれば、筆者も微力ながら支援してまいりたい。
以上