LPGC WEB通信  Vol.55  2018.10.10発行 

【特別寄稿】
 地域の社会インフラとしてのLPガスの機能と役割
 -災害時に不可欠なLPガスの利活用-

東洋大学経営学部教授
石井晴夫
1.市民生活に不可欠なLPガスの優れた特徴
 LPガス(液化石油ガス)は、全国総世帯の約4割にあたる約2,400万世帯の家庭用燃料として、私たちの生活に不可欠なエネルギーとして重要な役割を担っている。また、全国約22万台のタクシー等の自動車用燃料としても利用されるなど、様々な分野で使用されている国民生活に極めて密着したエネルギーといえよう。
 LPガスは、液化された状態で容器に入っているため運搬が容易で、都市部はもとより離島部や山間部まで国土の全域で供給されている。つまり、わが国の1次エネルギー供給の約5%を占め、民生需要の割合が高い。加えてLPガスは、酸性雨の原因となるSOX(硫黄酸化物)の排出がほとんどないことと併せて、地球温暖化の原因といわれているCO2(二酸化炭素)の排出量も少ない地球にやさしいクリーンなエネルギーである。
 LPガスの需要は、主に家庭業務用、自動車用の減少により1990年代後半以降、相対的に減少傾向にある。平成28年度(2016年度)は1,421万トンで前年度比0.1%減少しているが、 今後は低熱量のシェールガスの輸入の増大に伴う都市ガス増熱用や工業用のLPガスの需要増加が見込まれ、平成33年度(2021年度)は28年度比で2.7%(年平均0.5%)の需要増が見込まれている。
 周知のように、LPガスは都市ガスや電力等の系統供給とは異なり、容器に充填したLPガスを各戸に配送する「分散型」の供給システムが特徴である。このため大震災の時にも、1戸単位で迅速な調査・点検・復旧が可能であり、供給の安定性が他のエネルギーに比べて極めて高く、災害時においては復旧までの時間が短い分散型エネルギーである。さらに、家庭の軒下にはボンベが通常2本設置されており、軒下在庫として平均1ヵ月以上(50kgボンベの場合)の使用が可能である。
 現在、注目されている災害時対応のバルクシステムとは、LPガスのバルク貯槽と供給設備(ガスメーター、圧力調整器等)及び消費設備(煮炊き釜、コンロ、暖房器、発電機、ガスホース等)をセットにしたものである。災害時は外部からの救助、支援が期待できない災害発生直後の3日間を如何にして乗り切るかが最も重要な課題とされており、バルクシステムは、500kg貯槽に約半分のLPガスが残っている状態で約4日間、70人分の米飯をまかなうことが可能であると試算されている。同時に、ガスストーブや発電機等の使用も考慮されている。

2.LPガスの料金制度と法的規制
 一方、LPガスの料金は、電気・都市ガス等の認可料金(最近の法律改正によって料金も原則自由化)と違い、販売店がそれぞれの料金計算の方法によって料金を設定する方式(自由料金)になっている。契約前にLPガスの基本料金や、ガスの使用量に応じてかかる従量料金の内訳、さらには料金改定時における対応方法なども、利用者サイドに立って説明することが求められている。なお、料金改定については、都市ガスや電気と同様に原料費調整制度を採用している事業者も増加している。特に料金については、料金の内訳(基本料金、従量料金等)並びに算定方法、料金制度の考え方(基本料金や従量料金には何が含まれるか等)を書面に記載することが義務づけられている。書面は、契約を結んだ時に販売店から消費者に交付することとされており、「液化石油ガスの保安の確保及び取引の適正化に関する法律」の第14条に規定されている。
 2016年4月に自由化された電力の小売事業に引き続き、都市ガスの小売事業も本年4月に自由化され、消費者は自身が使用するエネルギーの供給事業者を、料金やサービスの内容等を比較して自由に選択することができる。こうした状況下において、LPガス事業者は地域に密着したエネルギー供給の担い手としてこれまでに培ってきた信用を活かし、引き続き消費者の信頼を得て、FRP容器の活用や高齢者見守りサービス等、地域住民の生活の向上や地域経済の活性化に貢献することが期待されている。他方、LPガス事業者は、小売価格を広く一般に公表していないことなどを理由に、様々な場において、消費者等から料金の不透明性等が指摘されている。
 平成28年度に、全国のLPガス協会に設置されているお客様相談所に寄せられた相談件数は3,907件(前年度に比べて848件減少)であった。相談件数は徐々に減少傾向にはあるものと、全体としてはまだまだ高水準にあるといえる。相談内容としては、「保安」に関するものが最も多く1,065件であり、前年度に比べて139件減少(25%)している。また、「LPガスの価格」に関するものが851件であり、これも前年度に比べて303件減少している(22%)、さらに、「販売店の移動」に関するものが684件(前年度に比べて303件減少)(18%)であった。 LPガスの価格の具体的な相談内容としては、料金制度や地域の平均価格、あるいは料金改定に関するものが多かった。

3.国の具体的対応策について
 こうした背景を受け、国の審議の場として約20年ぶりに、2016年2月に経済産業省の審議会である総合資源エネルギー調査会の中に「液化石油ガス流通ワーキンググループ」が設置された。ここでは、LPガス料金の透明化の促進や、魅力的なサービス提案を目指した対策等について審議された。それぞれの具体的課題に関し、今後、国が具体的な手段を講じていく際の基本的方向性を整理し、2016年5月に報告書として取りまとめられた。2017年5月の総合エネルギー調査会の「液化石油ガス流通ワーキンググループ」で対応方針の取りまとめを受け、2017年2月にLPガス取引適正化ガイドラインの策定、並びに液化石油ガス法省令等の一部改正が実施された。2018年2月には、取引適正化ガイドラインが制定されてから1年が経過した。この間、都市ガスの全面自由化が開始され、オール電化も含めたエネルギー間競争は激しさを増している。こうした状況下において、LPガスがより一層消費者等から選択されるエネルギーとなるために、取引適正化ガイドラインが改訂されたのである。主な改定内容は、a.戸建住宅と集合住宅それぞれの標準的な料金メニュー等の公表、b.苦情等への対応状況について適切に管理する必要があるため、最低でも1年は記録簿を保存することが規定されている。

4.災害時に強いLPガスの効果と役割
 分散型エネルギーの代表格であるLPガスは、2018年9月6日に発生した北海道胆振東部地震をはじめ2016年4月の熊本地震などにおいても、電気や都市ガスに先駆けていち早く全面復旧している。また、2016年8月の台風10号による岩手県岩泉町における水害では、避難所となったホテルが国の補助事業により設置したLPガスバルクと自家発電機を活用して、避難所としての機能が維持された。
 全国各地の避難所等にLPガスバルクと自家発電機等の設置を促進するため、資源エネルギー庁では平成30年度(2018年度)においても必要な予算措置を行うとともに、地方自治体の防災担当部局に対し、国の補助事業を活用しつつ取組みを促進するよう働きかけを積極的に行っている。大規模な災害等が発生した時に、系統電力や都市ガスの供給が途絶した場合でも、避難困難者が多数生じる病院や老人ホーム、公的避難所及び一時避難所となり得る施設等に対してはライフラインの機能を維持することが求められている。
 一般財団法人エルピーガス振興センター(以下、「振興センター」と略す。)は、国の補助金の交付を得て、自衛的な燃料備蓄のために石油ガス災害バルク等の設置に要する経費の一部を補助することにより、災害発生時においてもこれらの施設等に対する石油ガスの安定供給の確保を図り、その機能を維持させることを目的とし、石油ガス災害バルク等導入補助金事業を推進している。また、本事業を通じて国土強靱化地域基本計画を推進することとしている。補助金の対象となる設備である石油ガス災害バルク等とは、「容器(バルクを含む)部分」、「容器(バルクを含む)に接続する圧力調整器部分等(ガスメーターとガス栓含)」及び「燃焼機器」で一体的に構成されたものをいうと定義している。
 具体的には、「バルク部分」及び「バルクに接続する圧力調整器部分等」は、LPガス設備製造事業者等からの申請に基づき、振興センターが指定を行ったものに限られる。「燃焼機器」は、LPガス発電・照明ユニット、並びにLPガス燃焼機器ユニット(調理、炊飯又は冷暖房に供するもの)及びLPガス給湯ユニットをいい、いずれか一つ以上のユニットを購入または自ら設置していることが必要である。また、災害発生時に系統電力や水道等のライフラインが 途絶した場合でも、独立して稼働できることが補助金の条件である。「容器(バルクを含む)部分」のLPガスは、原則として災害等発生時以外の、平常時にも使用されていることが補助金の条件であり、災害等発生時に備えて常時適量以上のLPガスを充てんしておくことが必要とされている。図表1は、災害対応型LPガスバルク供給システムの補助制度の概要を図示したものである。なお、石油ガス災害バルク等導入補助金事業に関する詳細については、振興センターの下記のホームページ(http://saigaibulk.net/)を参照されたい。

図表1 災害対応型LPガスバルク供給システムの補助制度


 補助金の対象となる設置場所は、①災害等発生時に避難場所まで避難することが困難な人が多数生じる病院、老人ホーム等をいう。②公的避難所(地方公共団体が災害時に避難所として指定した施設)とは、地方公共団体等によって所有される公共施設のうち、災害時に避難所として利用される、自治体庁舎、学校、公民館、体育館などの公共施設等をいう。③一時避難所となり得るような施設とは、民間等が所有する工場、事業所、商業施設、私立学校、旅館、マンションなどの施設又は敷地のうち、地方公共団体が災害時に当該施設を避難所として活用できることを認知しているものをいう。また、団体の認知に関しては、協定書や覚書等で確認できるもののほか、地方公共団体のホームページでの公表や地方公共からの証明書など、いずれの形式であっても認知を確認できるものであればこれを問わない。さらに、この認知を申請書提出後に行う場合は、事業完了までにこれを行わねばならず、災害発生時には必要に応じて避難所として開設することや定期的に防災訓練を行うこと等の誓約書の提出、及び一時避難所であることを周知するため、補助金確定後に振興センターから交付される「PRステッカー」を当該バルク設置場所に存する建物の入り口など、地域住民から見えやすい場所に張り付けることが必要である。
 補助金の対象となる経費は、「設備費」と「設置工事費」である、設備費とは「石油ガス災害バルク等」の機器購入費であり、設置工事費とは「石油ガス災害バルク等」の機器の設置工事費等を意味している。なお、常時使用の配管及び電気配線等部分は、補助金の対象外である。この事業は、国の補助金の交付を得て、LPガス販売事業者の構造改善を推進するために、系列を超えた波及効果が見込まれる事業等に対して必要な経費の一部を補助する事業(補助事業)である。こうした取組みにより、消費者のLPガス販売事業者に対する信頼性を高め、地域社会における信用力向上を図りつつ経営基盤の強化を図り、もってLPガスの安定的な供給及び取引の適正化の確保を図ることを目的とするものである。

5.LPガス販売店は地方創生推進の旗手であり地域のライフライン
 現在、人口減少や超高齢化というわが国が直面している大きな課題に対し、政府は「地方創生」の推進に取り組んでいる。各地域がそれぞれの特徴を活かし、自らの手で創意工夫を凝らして人口減少に歯止めをかけ、人々が定住できるような雇用を創出し、産業の振興を図ることなどを目的としており、政府は財政面をはじめ、人的・物的の両面から支援の枠を拡大する方針である。その一方で、わが国の中山間地域等では、急速な人口減少に伴い、空き家も増加し、地域住民にとっては、生活に必要不可欠なサービスである医療・介護、福祉、教育、買物、公共交通、物流、燃料供給などの諸機能の提供に支障をきたしている。こうした課題に少しでも対応するため、生活に必要とされる各種サービスを一定のエリア内に集め、周辺集落と交通ネットワーク等で結ぶ「小さな拠点」の形成などが計画されている。
 地方創生の観点からは、中高年齢者が希望に応じて地方や「まちなか」に移り住み、地域の住民(多世代)と交流しながら、健康でアクティブな生活を送り、必要に応じて医療や介護を受けることができる地域づくりを進めるため、“生涯活躍のまち”の制度化も検討されている。地方創生の基本となる総合戦略の策定は、当該地域の実情をできる限り詳細に把握し、中・長期的な観点から問題点に対して解決策を見出すことが目的である。

 図表2 新しいサービス・プロバイダーとしてのワンストップサービスの展開


 グローバル化が急速に進展する中で、地域を取り巻く外部環境の変化も目まぐるしい。2016年11月の第2週には、初めて訪日外国人旅行者(インバウンド)が2,000万人を超えたと報道。訪日旅行者の旅行目的も多様化し、日本の歴史や文化はもとより、地方のさまざまな希少資源への関心が高まっている。地方創生に関わる各種施策を具体的に推進させるために、2016年4月20日に「地方再生法の一部を改正する法律」が施行された。同改正法では、国内外の環境が大きく変化する中で、地方公共団体は新たに地域再生計画を作成し、内閣総理大臣の認定を受けた場合には、当該計画に記載された事業について、「まち・ひと・しごと創生交付金」(地方創生推進交付金)を交付する。同時に、当該計画に記載された「まち・ひと・しごと創生寄附活用事業」に対して寄附を行った企業は、課税の特例措置が受けられる。LPガス販売事業者は、こうした地域の課題やまちづくりにも積極的に関わり、地元の地方公共団体や郵便局などとタイアップして、生活支援企業として「新たなサービス・プロバイダー」として脱皮することが必要である(図表2参照)。LPガス販売事業は、地域密着経営の代表格であり、「家まるごと」「地域まるごと」の視点から、常にお客様目線で事業を展開しなければならない。地元の市町村が策定した「人口ビジョン」や「地方版総合戦略」は、LPガス販売事業にとっても今後の需要動向に直結するものであり、LPガス販売店は地方創生推進の旗手として、地域のライフラインとしての「LPガスを核にした新たなビジネスモデル」を構築しなければならないのである。