LPGC WEB通信  Vol.59  2019.02.12発行 

【特別寄稿】
 LPガスと生活者コミュニケーション

広島経済大学 教授 北野 尚人 氏

 2017年度に引き続き、2018年度も学識委員として中国地方液化石油ガス懇談会に参加させていただきました。行政・事業者・消費者の皆さんのやり取りを興味深く拝聴し考えたことをご提示したいと思います。

 まず、小職の自己紹介をさせて頂きます。現在は大学で教鞭を取っていますが、前職は広告会社の博報堂で、35年間マーケティング職として広告と広報の仕事をして参りました。エネルギー関連では、電力と都市ガスの企業のマーケティング・広告・広報のお手伝いをした経験があります。そして、大学での専門分野は、広告、広報、マーケティング、ブランディングなどです。

 さて、この懇談会に参加させて頂き、気づいた事を述べたいと思います。小職は広告や広報の専門家として、一般の方があまり気にしない事に反応する事がよくあります。まず最初に感じたことは、「LPG」や「LPガス」という言葉と「液化石油ガス」、或いは「プロパンガス」という言葉は、一般の人にとって同義語と認識されているのであろうかということです。その業界の当事者になると、ついつい自分の商品やサービスに関しての専門用語が当たり前になってしまいます。

 この懇談会の大きなテーマは、「消費者に選ばれるLPガス」ということですから、電気や都市ガスと比較され、競合するという視点が重要になります。何かと競合する場合には、自己満足は許されません。そこで重要なのは、丁寧で分かりやすいコミュニケーションと、説明責任を果たすための工夫です。使う言葉に関しては、「小中学生の子どもたち」が分かるレベルまでかみ砕くことが大切になります。
 この視点で考えると、「ガス」と「液体」ということの説明がまず必要になります。小中学生にとっては「ガス」は気体ですから、「液化石油ガス=Liquefied Petroleum Gas」という言葉は、ある意味矛盾しているわけです。こんなことは、この業界にずっといらっしゃる方は考えたこともないのかもしれませんが、コミュニケーションの専門家はこういったところが気になるのです。
 更には、省略語に関しても注意が必要です。初めてこのエネルギーのことを聞いた人は、「LPG」が何の略であるかは分からない可能性があります。従って、業界としてお客様へ説明する時の言葉の統一は、解決すべき課題であると考えるべきです。

 何故そのように言えるかといえば、様々な業界のマーケティングをお手伝いしてきた経験から、当該領域への「入学と卒業」を考えさせられることがよくあるからです。
 家庭のエネルギー源に関して真剣に考え始めるのは、多分一人暮らしを始めた時か、或いは、結婚して家庭人になった時である可能性が高いと思います。言い換えれば、この時に初めて、人は「家庭でのエネルギー源という市場」に入学するわけです。そして、卒業というのは、自分でエネルギー源の選択をしなくなる時です。高齢になって子どもと同居する時や高齢者施設に入居する時が、家庭エネルギー市場からの卒業であると考えられます。
 更に大切なのは、どんな市場でも常に入学者がいるということの認識です。言い換えれば、何も知らない人がお客様になることが継続的に起こるということの理解です。このことさえ理解していれば、自分達が使う言葉に注意深くなれるはずです。

 以上、雑駁に感想を述べて参りましたが、LPガスの今後に向けて、現代日本の社会や世相に広く照らし合わせた提言を幾つかしてみたいと思います。
 まず、これからのLPガス市場を考え、選ばれるエネルギーになるために必要なのは、生活者発想であるということです。生活者発想は、お客様を単なる消費者としては捉えないという考え方です。人々は生活する中で消費するのであって、消費するために生活しているのではないということです。従って、お客様を生活者として捉えれば、生活価値観までを考慮したアプローチが可能になってくるわけです。言い換えれば、安全価値観、環境価値観、価格価値観など、お客様がどんな価値観を重視しているのかを理解して対応しなければ、現代社会では選択されるサービスとなることは難しくなります。
 お客様を理解した上で更に大切になるのが、前述した説明責任という考え方です。コミュニケーションのプロは、言葉は伝わりにくいものだということを前提にして考えます。10個言いたいことがあっても、その半分くらいしか伝わらないかもしれないと考えて、広告は作るものなのです。従って、広告や販促物は相手から見られないことを想定して制作しているのです。だからこそ、見られる工夫や、理解してもらい好感を持ってもらうための仕掛けが重要になってきます。具体的には言えば、誰にでも読みやすい説明資料を作ることが、益々大切になります。そのためには、分かりやすい言葉を使ったり、視覚に訴える絵やチャートで図解したり、更には、増加する高齢者の方を想定して文字の大きさに配慮したり、等の知恵が必要になってきます。繰り返しになりますが、丁寧で分かりやすいコミュケーションが重要なのです。

 さて、LPガスには、大きく2つのコミュニケーション領域があると思います。まずは、インナー関係者の間でのコミュニケーションです。こちらは、専門用語があっても構いません。多少、分かりづらくても、仕事ですから伝わります。しかし、もう少し分かりやすくする工夫があっても良いかもしれません。文章をもう少し短くしたり、レイアウトを工夫して、読みやすくした方が良いと思われます。
 もうひとつは、一般の生活者との間のコミュニケーションです。こちらは、専門用語を噛み砕き、視覚化して図解するなどの分かりやすくする工夫が必要です。冒頭で述べたように、「LPガス」という言葉に関しては、そもそも用語の整理が必要でしょう。「液化石油ガス」「LPガス」「LPG」「プロパンガス」などの混乱を、まず解決すべきです。
 若い大学生を教えていると、知識が無い領域がかなり多い事に気づかされます。学生が一人暮らしを始める時、結婚して家庭を持つ時に、「液化石油ガス」と「LPG」が同じ物だと思わない可能性すらあるのです。
 組織名や団体名に関しては、従来からの継続性があるのでやむを得ないとは思いますが、
一般生活者向けのコミュニケーションでは、このへんの言葉の整理がこれから益々重要になって来ると思います。

 素晴らしい特性を持ち、現代社会においてなくてはならないサービスとしての「LPガス」が、コミュニケーション領域でも更に進化され、今後持続可能な発展を続けることを祈念して、筆を置くことといたします。
以上